ようこそ!このプログは,地方都市在中の私ことフルカワヒロミという腐れ外道が,これまで音楽活動等をする際に使っていた自己オフィスが有名無実化していることを嘆き,個人的な情報発信(というか,音楽を中心に好きなモノを好き勝手に語る)の場として,皆様のお目汚しを気にせず,書き殴っているものです。これを読んで同調してもらえたり,興味を示してもらえれば光栄ですが,なにせ不親切きまわりない内容ですので,更に深く調べたい方はリンク先やGoogle等の検索サイトでお願いしますm(_ _)m

どうして旅に出なかったんだ/友部正人


 というわけで,平成18年が始まってもう7日も経ってしまった。
 年の初めでかつ99回目に何を取り上げようかと悩んだのですが,私の大好きな友部正人さんの“どうして旅に出なかったんだ”(現在は,“1976”というタイトルで友部正人オフィスから発売されている。)について書きたいと思います。
 友部正人さんについては初めのころの“にんじん”を取り上げて,それもすごく好きなアルバムなんですけど,この“どうして旅に出なかったんだ”は就職して2,3年経って何か閉塞感を感じていたときに「唄を作って歌うこと」と「一人でいることの素晴らしさと寂しさ」を改めて突きつけてくれた,私にとっては素晴らしいアルバムなんですよね。

 まず,1曲目のタイトルナンバー“どうして旅に出なかったんだ”は旅にから帰ってきた君から旅に出る出ると言っていながら町の銭湯で自分の体ばかり洗っている僕へ,「君はどうして旅に出ない(自分で何もしない(のか?」と突きつけられてられている唄です。この唄を聴きながら,「いいや,私は旅に出ているよ」といつも自問自答していましたね。
 2曲目の“びっこのポーの最後”はアメリカのギャングの親分が主人公の唄なんですけど,「アメリカは生きることの職人さ,誰も(落ちぶれた)あんたに構っちゃいられなかったのさ」というところは,アメリカでも日本でも,どこでも通用するのではないかと思うんですけどね。だから,自分で生きていくんだと思いますし。
 3曲目の“君のからだはまるで”はアメリカに単身渡っている女性が主人公の唄なんですけど,「私っていつも我慢ばかりしてきたんだわ。ふと何となく人生が分かったような気がして。何となく分かった人生は我慢するしかないつまらないものだった。」というところが,当時の自分のやさぐれた気持ちにピッタリ合っていたような気もしますです。
 4曲目の“はじめぼくはひとりだった”は,私的には大名曲ですね。親との関係,自分で一人で生きていき,一人で生きていくことの幸福感を感じながらも,ある日素敵な言葉を見つけて,初めて寂しさを知ってしまうという唄で,当時,暇があるとバイクに乗って一人で旅をしていた私にとっては非常に身に染みる唄でしたね。
 5曲目の“ある日ぼくらはおいしそうなおかしを見つけた”は,学生運動後の目的(たぶんこれを「おかし」に例えているんだろう。)を見失った当時の若者らがテーマなんだろうけど,「何だおまえら,それでも生きているのか。夜更けの酒場でしたたか殴られた。実際ぼくらは本当に無気力になっていた。後から後から涙だけがあふれ出てきた」というところがあるんですけど,友部正人さんよりも下の世代の私としては,そもそもおかしを一度も見つけることなく,無気力になってしまった自分達の世代の方が身につまされる唄なんですけどね。でも,最後は「ぼくらは今もおかしを食べられないでいる」と終わっているのが友部正人さんらしいんですけどね。
 6曲目の“ヘマな奴”は友部正人さんらしい唄で,“トーキング自動車レース・ブルースに近い唄です。最後の「パトカーのサイレンがひっきりなしに聞こえる。またヘマな奴が捕まったんだ」で終わるところはそんな感じがします。
 7曲目の“フーテンのノリ”は,多分友部正人さん70年前後の経験を唄にしているんだと思える唄です。激しい時代を乗り越えて,「君は今どこで何をしてる?北海道の大原野の郵便屋さん?,それとも東京のいつも寂しい酔っぱらい?」で終わるのですが,私もただのいつも寂しい酔っぱらいですので,今聴いても身に染みますね。
 8曲目の“ぼくのこと君にはどう見えるのか”は,何者でもない自分が第三者から見えるのかということを突き詰めて歌っている唄で,当時の若くて自意識過剰なころの私にとっては,どうしようもなく分かりすぎてしまう唄でしたね。
 で,最後の“ユミは寝ているよ”という唄は,眠っている妊娠中のパートナーを見ながら,自分を反省したり,やさしい気持ちになったりしている唄です。「今夜は僕にも雨の音がよく聞こえるよ。それはユミの寝息がよく聞こえるからかもしれないよ」という唄で終わるんですけど,友部正人さんがユミさん(実際に友部正人さんのパートナー)のことをものすごく愛しているんだろうな,私もそういう女性と出会いたいなと当時の私は思っていましたね。で,今がどうかというと・・・コメントは差し控えたいと思いますです。

 で,このアルバムは差別用語使用ということで発売後にレコード回収,発売禁止(この前の2枚のアルバムも差別用語問題でオリジナルのCBSソニーからはCD化されなかったけど)となったいわくつきのアルバムなんですけど,たまたま中古レコードやで4000円で売っていて,迷うことなく購入したんですよね。しかし,「びっこ」だとか「乞食」だとかが歌詞に入っているだけで何で発売禁止になるんだ。友部正人さんの唄を聴いていても,そんなことで不快になることはないと思うんだけど。それじゃあ「足の不自由な人」だとか「他人に施しを受けて生きている人」って言えば差別がなくなるのか?そうじゃなくて,差別意識をもってこういう言葉を発することが差別なのではないか?とこの素晴らしいアルバムを聴いて思ったです。
 友部正人さんが好きな人,70年代フォークに興味がある人にはぜひ聴いてほしいアルバムですし,差別って何なんだって思っている人にもぜひ聴いてほしいアルバムですね。
 何か新年早々熱くなってしまったので,今回はこの辺で。