今回は,VIBRASTONEのこのアルバムを取り上げてみたいと思います。
で,最近は,ラップが市民権を得て,当然のようにテレビの歌番組なんかに出ていますが,このアルバムはそんなことが考えられもしなかった1993年に発売されたものです。しかし,ラップというとバックトラックは打ち込みのイメージが強いのですが,このVIBRASTONEのすごいところは,バックトラックが基本的に生ということでしょうか。
近田春夫の凄いところは,これまでの自分のロックフォーマットに惜しげもなくいろんなテイストを混ぜてしまえるところだと思うのですが(近田春夫とハルヲフォン時代の歌謡曲テイストを導入した“電撃的東京”もそうですし,洋楽ニューウェイヴテイストを導入した近田春夫とビブラトーンズ時代とか(これは,今度,語ってみたいと思います。)),VIBRASTONEになってからは,大胆にもアメリカのラッパー達の気持ちのいい打ち込みグルーブ感をいかにして生音で出すかということを目指したようで,昔のインタビューでは「黒人はセンスであのグルーブ感を作ったけど,俺ら日本人はそんなことはできないので,理論的にグルーブ感を作り出した。だから,どんな曲でもあのグルーブ感を出すことができる。」と言っていましたので,やられたなぁ・・・という感じです。
で,このアルバムは,1枚目の“VIBRA IS BACK”(自主制作),2枚目の“ENTROPY PRODUCTIONS”(メジャーデビュー盤。以下「前作」という。)に続く3枚目で,確か,この後はオリジナルアルバムを出さず,解散したような気がします。
音的には,前作のラップ一辺倒から少し幅が拡がったかなぁ〜という感じがしますが,歌詞はあいかわらず過激で,歌詞カードがあったら,多分,発売中止(又は禁止)になってたんじゃないかなぁ(それは前作も同様)。
当時のトレンディドラマ(笑)と不倫を揶揄した”TVドラマは全て現実”とか,当時はゲームソフトのことを歌っていたんだけど,今となってはCD(のコピー)にも相通じる“SOFT”とか,Tバックギャルも取り入れた問題作“ママ”とか,ともかく,もう,なんと言ってよいのやらという曲が満載です。
社会に対する毒度では,前作に負けている(というか,前作はタイトルどおり,社会的視点の曲が多く,社会に対する毒ばかりというか・・・最後の曲なんて“人間バーベキュー”だもんなぁ・・・)けれど,今回は当時の風俗を中心にした歌詞で,逆にだからこそ,今聞いてもそんなに古く聞こえない(というか,風俗的にはあの頃からそんなに変わっていないのかもしれない。というか,対象物が変わっただけで,本質は変わってないというか。)のではないかと思いますね。
ところで,最近,近田春夫って名前すら見ないんだけど,どうしてるのかなぁ・・・確かにラップ以降,新しいフォーマットの音楽が出てきていない(というよりも,80年代とか70年代の焼き直ししか出てきていない)ので,音楽をやる気がないのかな。
そろそろ,近田春夫の“今の”毒のある音楽が聴きたいけど,こんな音楽状況なんで,もう少し待たないといけないかもしれないね。